「自分では抗う事の出来ない死」と「生きる意味」

2013年08月16日

しばらくブログを更新出来ませんでした。

考えてみれば春の桜から短かったとはいえ梅雨を超えて酷暑の季節を迎え、それもすでにツクツクボウシの声を聞く時期になっています。来週水曜日は、恒例になった縁日とコンサートと花火大会が開かれます。今年から、「箱根病院ホーム・カミング・デイ」として開催することにし、かつて当院で働いた事のある皆さんが、自由に顔をだして下さる日にしました。患者さんの絵を中心にした、「アート・ギャラリー箱根2013」も新たに始まります。

 

新病棟の工事は徐々に進んでいますが、職員の継続した勉強も進んでいます。昨年度から看護課を対象に医師が順番に毎月テーマを決めて疾患の理解を進める「イブニング・セミナー」が始まっています。 幸い救急患者を受ける病院ではありませんので、当直日の夕方に当直医が30分間で同じ内容の講義を繰り返し行います。当直の回数にもよりますが、平均3回程度で曜日も異なるため、交代勤務の職員でも参加しやすく工夫されています。荻野副院長の発案です。最初聞いた時に「なんて箱根病院向きのアイデアだろう」と感心してしまいました。そして、今年度からは看護課だけでなく他の診療部門の職員も参加出来るセミナーになりました。医局の先生方が順番で講師を務め、今月の当番講師は私です。

私は毎年8月になると戦争で「自分では抗う事の出来ない死」を迎えた人々のことを考えてしまいます。当時、それは戦場だけでなく市井の暮らしの中でも起った事です。もちろん、私も戦後生まれですから想像する以外にない訳ですが、それでもその悲惨さにおののき、平和のありがたさを深く感じます。そして、戦争が終わって66年経とうとする平成23年3月11日の東日本大震災では「自分では抗う事の出来ない死」を目の前で見る事になりました。当日、東京・新橋で出張中に大きな揺れを感じ帰宅難民になりました。その深夜ようやく辿り着いた友人宅で目にした津波の映像にしばらく言葉が出なかった自分を思い出すと、被災された方々・亡くなられた方々の感じられた恐怖や体験は如何ばかりだろうと思います。 そんな事を思いながらの8月のイブニング・セミナーでは「筋萎縮性側索硬化症」の講義をしています。

 

この病気は進行性に運動機能が失われ、寝たきりで介助が必要となり、食事ができず呼吸も困難になるとともに、言葉でのコミュニケーションが出来なくなってしまいます。現代医療で治療が未確立なこともあって厚労省から特定疾患(いわゆる難病)に指定されています。当院では発症早期から重度にいたる障害を持つ方まで、沢山の患者さんを診療していますので、職員はこの病気についてよく知る必要があります。

 

進行性の病気で治療法が確立していない訳ですから、患者さんは戦争や自然災害でなくとも病気で「自分では抗う事の出来ない死」に直面します。具体的には、摂食・嚥下の障害で栄養が取れない、呼吸筋障害で呼吸が出来ない、痰を出せない事で窒息や肺炎の恐れが高いなどで死に直面するのです。 しかし、いくつかの対処法はあります。胃瘻を造っての経管栄養、人工呼吸器の使用、人の手や機器を使っての排痰法等です。これらは「死を回避する」方法ではありますが、病気の進行は抑えられません。進行する疾患と共に生きることになる訳ですから、患者さんの多くはこれらの医療処置を「する」か「しない」かの選択を迫られることになります。患者さんが考え結論を出す場面に立ち会わせて頂いた私の拙い経験で総てを理解する事は到底出来ませんが、患者さんは「自分では抗う事の出来ない死」と「自分の生きる意味」の狭間で考え続け結論を出されるように思います。 私は箱根病院の職員に疾患の身体的側面だけでなく、患者さんの心の動きを十分に心に停めてほしいと思っています。身体にも心にも寄り添うこと、患者さんの決心をきちんと受け止めることです。そこで講義の最後のスライドは、次のようなものになりました。

 



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