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院長からのご挨拶

こころと身体を癒す,いのち輝く癒しの病院

 箱根病院は長い歴史を経て神経筋・難病医療を専門とする病院になりました。私たちの担当する疾患は、進行性筋ジストロフィーなどの筋疾患、筋萎縮性側索硬化症(ALS)・脊髄小脳変性症・パーキンソン病・ハンチントン舞踏病などの神経変性疾患、遺伝性ニューロパチーなどが中心です。これらの疾患は、いまだに根治療法が確立しているわけではなく、患者さんは病との長い戦いを強いられます。そして、その戦いはやがて病を持ちながら人生を生きることに変化していきます。
 私たちは「思いやりの心で医療に貢献する」という基本理念のもとで、「疾患と共生する人生の支援」「安心する医療の提供」「満足できる療養環境作り」「医療に携わる者として専門性の発揮」を目標に掲げています。たとえ人生の一時期であっても、かなりの長い期間を箱根病院で過ごす患者さんの命が輝き、心癒される空間・医療・サービスを提供したい。それが、私たち箱根病院の全職員の願いであり、大きな課題でもあります。

患者さんファーストに徹したサービスの提供

 箱根病院には、障害者自立支援法に基づく医療型療養介護病棟と一般病床としての障害者病棟があります。療養介護病棟は医療と福祉を融合したサービスを提供します。ここには主に筋ジストロフィーや神経変性疾患の患者さんが入院しています。これらの病棟では看護師に加えて介護資格を持った療養介助員が生活支援を行います。障害者病棟では神経難病への継続的診療だけでなく、短期入所事業やレスパイト入院を通して在宅療養もサポートします。病院への入退院、医療相談は地域医療連携室が担当しており、患者さんが利用しやすいサービスを提供しています。
 入院療養生活の質を左右するのは主に看護です。そこで、箱根病院は常に難病看護教育の充実を意識しています。すでに、多くの日本難病看護学会認定難病看護師が在籍し、看護の質の向上に努力しています。2020年の全国アンケート調査では、現在難病にかかわっている看護師はどのような知識・技術が不足していると感じているのか明らかになりました。最上位に位置したのは、ALSやパーキンソン病などの神経変性疾患に関する医学的知識、呼吸ケア・栄養ケア・意志伝達支援などの看護・ケアに関する知識、あるいは日常生活指導としてのリハビリテーションの知識でした。箱根病院では、これら全てについて最先端の知識や技術を学ぶことができます。
 特に箱根病院では、神経筋・難病で課題となる呼吸、摂食・嚥下、コミュニケーションの問題に積極的に取り組んでいます。これらの診療上の問題を解決するために積極的に活動しているのが多職種連携チームです。現在、医師、看護師が中心になり、呼吸ケアサポートチーム(理学療法士、臨床工学技士、薬剤師の参加)、摂食・嚥下・栄養・褥瘡サポートチーム(管理栄養士、言語・聴覚士の参加)、コミュニケーションサポートチーム(作業療法士の参加)、緩和ケアサポートチーム(薬剤師、心理士、管理栄養士、MSWの参加)が病棟での業務の実践を支えています。外来では、診療科と放射線・検査・栄養などの各部門が連携して、神経疾患に多く出現するADLの低下に対応して、専門的なアドバイスを行っています。

箱根病院の近未来

 医学の進歩はこれまで不治とされた難病にも新たな治療の光を当ててきています。すでに当院でも一部が臨床応用されていますが、免疫グロブリン製剤や分子標的薬を中心とした新規治療薬の登場です。これからの箱根病院は難病を治療する病院としての機能を強化していきます。その意味で、これまでも当院の診療疾患になっていましたが、重症筋無力症や慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーのような慢性の免疫性神経難病の診療をさらに拡充していきます。診断面では、すでに導入されている3T-MRIや16列ヘリカルCTなどの神経筋放射線学的検査の活用だけでなく、単線維筋電図などの神経筋電気診断や神経筋超音波診断のさらなる充実が必須になります。治療面では、新規薬剤の導入だけでなく、運動機能や日常生活動作を改善するためのリハビリテーション治療が非常に重要です。そのため当院では、外来・入院に区分けされた新たな構造を有する訓練棟の改修に着手しています。このような新規治療やリハビリテーションによって完治ができないまでも、少しでも心身の機能が改善し、患者さんの日常が好転するようならば、箱根病院の基本コンセプトである「いのち輝く、癒しの病院」にさらに近づけるはずです。
 広々とした病室の窓からは陽の光を浴びつつ、西湘の海、石垣山一夜城址、箱根ターンパイク、箱根連山を一望でき、そこにはのんびりした箱根登山鉄道の軌道音が心地よく響きます。これから外来管理棟、機能訓練棟(リハビリ棟)、サービス棟の改修が進み、働く職員にとってもアメニティやインターネット設備がさらに充実した働きやすい環境が整います。国立病院機構箱根病院は神経筋難病の早期診断、病態評価、予後予測、治療、良質の看護、介護と生活支援、医療相談を含めた在宅療養支援と心癒される長期療養までの総てを提供できる神経筋・難病医療センターとしてさらなる進化を遂げていきます。

院長 今井富裕