慣れた人と場所で

2014年01月29日
当院外観です。 当院は2つの機能を持つ病院です。
  • 1つ目は、神経難病を対象とする神経内科病棟
  • 2つ目は、筋ジストロフィー及び障害程度区分6以上で人口呼吸器を装着している方を対象とする療養介護病棟
です。

神経内科病棟は医療を、
療養介護病棟は障害者自立支援法によるもので、医療と福祉の両面を持っています。
入院に係る患者さんの自己負担は当然療養介護病棟が少なくなります。

今回登場する梨田(仮称)さんは、神経内科病棟に入院されている人工呼吸器を装着したALSの女性患者です。
進行が早く、コミュニケーションツールが使えないまま、
現在は眼球の動きと人差し指の微妙な動きのみでどうにか「はい」、「いいえ」を伝えられるだけです。
その「はい」、「いいえ」さえも長い日数をかけて、やっと看護師たちが獲得した唯一のコミュニケーション手段でした。

そんな梨田さんは療養介護病棟への入所待ちで一時的に神経内科病棟に入院していましたが、
この度空きベッドが出て、療養介護病棟への転棟が決まりました。

待っていた引っ越しのはずが・・・

待っていた病棟の引っ越しです。
当然喜んでもらえるだろうと担当看護師が本人に伝えた所、苦悶の表情で涙を流されました。
梨田さんは不安で堪らないのです。この病棟の看護師は自分の伝えたいことを理解してくれる、
しかしながら、替わった先の病棟の看護師が同じように理解してくれるのか。

同じ事を担当の看護師も考えていました。
新しい病棟の看護師が梨田さんの微妙なサインをすぐに理解できるだろうか。
理解できるようになるまで梨田さんはどうなるのだろうか。
担当看護師として患者さんに入り込みすぎた故の考えだろうか・・・と。

患者さんが望んでいることは何か。

いろいろ考えた末、担当看護師は看護のチームカンファレンスに
「梨田さんの転棟に関するメリット・デメリット」として議題としてあげました。

  • 新しい病棟でコミュニケーションが取れるまで非常に負担や苦痛を梨田さんが味あうであろう事
  • この先コミュニケーションがとれなくなるまで、そんなに長くないと予想される事
  • そして何より転棟を梨田さん自信が不安に思っている事

等をチームで検討した結果、
梨田さんが不安なく入院生活を送ることが今の梨田さんにとって必要な看護であるとチーム全員が判断しました。


患者さん達の生活を守るのは医療者の役割

この看護者の判断をキーパーソンであるご主人に伝えると、
ご主人も「慣れた場所で、慣れた看護師さん達に看てもらった方が安心です。」と喜んで了解してくれました。
もちろん、梨田さん本人も先に流した涙とは違う涙を流されました。

自宅から離れ、療養生活を余儀なくされる患者さん達の生活を守るのは医療者の役割です。
安心できる生活の場には、医師や看護師などの人的な要件も入ります。
患者が何を望んでいるのか、そして、患者の望みを叶える方法を考えられる看護者でありたいものです。

 

 

 





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