ワインとピアノが好きだった高橋さん
筋ジストロフィーの高橋(仮)さん。
療養生活の中での楽しみはピアノを聞くこと。以前はピアノを聴くのを楽しんでいたそうです。
身内がいない高橋さんは、元職場のあるご夫婦が身元引受人になっていました。
そして症状が進み危篤状態になった時、身元引受人のご夫婦とご友人の方が病室に来て、 高橋さんを見守っていらっしゃいました。
高橋さんは症状の進行に伴う、気管切開などの医療処置は一切拒否されていたため、
スタッフも患者さんのために何かできる事はないかと考えていました。
そのような時、一人の療養介助人が言いました。
「高橋さんはワインがお好きだったのですよね。 もう飲めないのかな。」
その一言に身元引受人のご夫婦が反応されました。
「ワイン買ってきます。飲めなくても飲ませてあげたい。」
と。
1時間後、ワインを数滴、高橋さんの唇に乗せ、「美味しいですか」と尋ね、
病室に集まったご夫婦、ご友人、 スタッフで高橋さんの思いに心を寄せ合いました。
ピアノの音に包まれて
息を引き取られる時、ご夫婦、ご友人、看護師、療養介助員、指導室のスタッフが病室に集まりました。
過去に患者さんを何人も見送った経験がある職員でも、
身内の方がいない臨終の席は特に寂しく切ないものです。
身内の方がいないからこそ、患者さんを寂しく逝かせたくないと思うものです。
指導室のスタッフが、CDを病室に持ってきて、ピアノ曲を病室に流しました。
ピアノ曲が流れる中、高橋さんは静かに息を引き取りました。
いつも高橋さんを大切に思っていたご夫婦とご友人と、
スタッフと皆が揃った中で、ピアノの音に包まれて旅立たれました。
そばにはワイン・・・
意味ある最後にするために
筋ジストロフィーの看護は、Q.O.L(クオリティ・オブ・ライフ)を少しでも向上させることを目的としています。
しかし筋ジストロフィーは難病であり、
高橋さんのように医療処置を拒み、 死を受け入れる方も多くいらっしゃいます。
長い療養生活を送り、疾病と共に生きてきた患者さんの最後を、
どのような形で向かわす事ができるのかを 看護師は考える必要性があると思います。
入院してきた患者さんの今だけを見るのではなく、 その患者さんがどのような人なのか、
趣味は何か?などの情報を持ち、 疾病と共生する患者さんの生活を支え、
患者さんの人生そのものを意味あるものとして 終結するお手伝いも必要だと感じています。
箱根病院での看護の日々をまとめた「寄木細工の看護」の物語を読む。